上皮は考える#10 私自身の将来は今、この瞬間 ここにある

 これは、愛媛大学暁清文教授よりお教えいただいた京都大仙院小関宗圓師の言葉である。
「私自身の将来は今、この瞬間 ここにある。今 ここで頑張らずにいつ頑張る」。
努力家とはほど遠い私には非常に重く感じられる言葉であるが、忙しい日常診療の中でただでさえ埋没しがちな研修中の皆さんにこそお送りしたい。
希望の光
最後に
 上皮研究を始める際、暖かく見守っていただいたご指導を賜りました故岩田重信教授に深謝いたします。

【原典】「上皮は考える」三輪正人著
耳鼻咽喉科臨床 104:12;918-919,2011
を引用改変しています。
 

上皮は考える#9 耳鼻咽喉科医の上皮研究に対する期待

 耳鼻咽喉科領域の上皮は、ほとんどの場合容易に直接タッチできる。われわれは、外来、病棟などで、常に耳、鼻、のど、頸部を見て触っている。その過程は、上皮細胞そのものを治療しているといっても過言ではない。
診察室
 祖父あるいは父のクリニックの外来診療を間近にみていた子供の頃、あまり魅力的に感じなかったこれらの処置そのものが、実は正統的な耳鼻咽喉科診療であり、また関連他科の中で埋没しない耳鼻咽喉科医としての生き残る道であると最近思うようになった。
 昨今、院内感染防御などの視点から、大学などの教育機関で局所処置の機会が減少している嫌いがあるのは、耳鼻咽喉科の明日を考える上で不安要素の一つであると思っている。しかしながら、ただ漫然と処置をするのではなく、それぞれがどのような機序で効果を発揮しているのかを見極めるのが大切であり、そのエビデンスを明らかにすることを目的とする基礎研究が、新規局所治療の開発として実を結ぶことになると確信している。
 このような研究に現在研修中の耳鼻咽喉科医がより一層関わり、From Clinic to Bench and-Backの観点から、重要な知見を次々と発表されることを願っている。

上皮は考える#8 Drug delivery system

 鼻粘膜のナノ粒子によるDDSに関しては、最近の進歩が著しい。
DDSの観点から、鼻粘膜は非常に有望なターゲットであると考えられている。従来の局所吸収の経路の考え方から、経細胞路としてイオンチャネル、受容体、トランスポーター、キャリア、リピッドラフトなどを介するものが知られている。
 また、傍細胞路であるタイトジャンクションを介した吸収促進剤が従来研究されてきている。もちろん吸収経路としての上皮は重要であるが、粘膜上皮細胞そのものをターゲットとした治療戦略も無視されるものではないと考えている。
細胞チャネル

上皮は考える#7 内皮も考える

 筆者は米国留学中に脳血液関門を専門としているラボで、ヒト脳からとった初代培養内皮細胞を用いた実験をおこなっていた。
内皮には、シアストレス(shear stress、ずり応力ストレス)が常にかかっている。シアストレスは血管の新生やリモデリングに関与し、また動脈硬化や動脈瘤の発生との関連性があることが示唆されている。
 近年シアストレスは呼吸でも生じると考えられている。気道上皮でも、呼吸によるシアストレスが、上皮のバリア機能に影響を及ぼし、気道疾患の発現進展を修飾する可能性が考えられ、特に下気道では過換気症候群や運動誘発性喘息などとの関連に関する研究が開始されている。
 摘出気管や培養上皮細胞に、我々が開発した拍動流作成可能な流れ負荷装置と培養細胞に適用可能な改良型ウッシングチャンバーを組み合わせたシアストレス解析装置を適用し、流速と周波数を可変することにより、電気的バリアの状態が変化することを見出している。
ウッシングチャンバー

上皮は考える#6 塩化亜鉛、ルゴール、グリセリン

 これらは、耳鼻咽喉科クリニックの日常臨床で一般的に使用されてきた薬剤であるが、病巣の粘膜上皮に働いて効果を発揮していることは間違いない。古くから記載されている塩化亜鉛の組織収斂作用の機序として、電気的バリアの増強が関連している可能性がある。
 上咽頭の塩化亜鉛処置は、古くは医科歯科大学の堀口らにより、最近では千葉の杉田らによりおこなわれている。堀口によりおこなわれた高濃度の塩化亜鉛の塗布は、粘膜のablationを起こすと考えられるが、より低濃度にかつ中性化することにより、バリア機能が高まり、過分泌状態が是正されることを、我々は確認している。
 グリセリンは、粘膜をコートすることにより電気的バリアの増強がおこることは容易に推察されるが、ルゴールは、その成分中に含まれるヨードがクロライドチャネルを活性化させ、最終的に分泌を増加させるのではないかと思われる。過分泌状態の炎症病巣には塩化亜鉛が、また分泌低下にある炎症病巣には、ルゴールの処置が適している可能性が示唆された。
 また、咽喉頭酸逆流症の病態改善に、至適な塩化亜鉛の局所投与(喉頭注入)が有効である可能性を示唆する結果も得ている。
蒸散
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